さて、侍サイクル的自転車映画6選(後編)
前編はこちらから
4.『メッセンジャー』(1999)
さてと、こちらは映画のタイトルがズバリ『メッセンジャー』。ホイチョイですよ。ホイチョイ・ムービー。
バブルと言えばホイチョイ。ホイチョイと言えばバブル。まさにバブルの申し子。
有名な「ホイチョイ三部作」と言えば『私をスキーに連れてって』(87年)、『彼女が水着にきがえたら』(89年)、『波の数だけ抱きしめて』(91年)ですよね
本作はそれよりも8年も後の作品なのですが、実は三部作よりも興行収入が上回っていたりします。
ホイチョイ映画の基本というのはその時々の流行のアクティビティを恥ずかしげもなく真正面からテーマにしちゃうとこ。
恋、友情、仕事、アクティビティ、そしてユーミンorザザン。これ。
ということは、当時「(街乗り)MTB」にそれだけ勢いがあったということなんだろうなぁ。
で、この映画は前回に挙げた『クイックシルバー』のホイチョイ版みたいなお話。
公開当時すでにバブルが崩壊していましたが、そんな中バブルの時代を引きずるキャリアウーマン清水尚実(飯島直子)が主人公。
このあたり、バブルの申し子ホイチョイが時代遅れのバブリー女を描いているのが面白い。
働くアパレル会社が倒産したことによりすべてを失った尚実は自転車の男・横田(矢部浩之)と交通事故を起こしてしまう。
横田は友人の鈴木(草彅剛)と2人だけで、小さな自転車便会社「TOKYO EXPRESS」を営んでおり、示談の条件として退院するまで代わりに自転車便の仕事をさせられることに…という導入です。
正直、ツッコミどころはありまくる。本当のド素人に自転車便ができるのかとか言い出したら、そりゃあもうきりがない。ツッコミが終わらない。全体的な映画の構成としても上手とは思えない。まあそんなところがホイチョイムービーらしさでもあるわけで。
でも、当時の東京の空気感というか軽薄さというか、「やぶれかぶれな明るさ」みたいなものが感じられて僕は嫌いになれない。いや「好き」といってもいいだろう。なんか時々、ふと見たくなるのだ。
5.『キッズ・リターン』(1996)
北野武監督の長編6作目。落ちこぼれの高校生シンジ(安藤政信)とマサル(金子賢)の成功と挫折を主軸に描いた青春物語。
邦画史に残る名ラストシーンが、時を経たシンジとマサルが自転車を2人乗りするところですね。ご存じの方も多いと思います。
「マーちゃん、俺たちもう終わっちゃったのかな?」
「馬鹿野郎、まだ始まっちゃいねぇよ」
高校の同級生シンジとマサルはいつもつるんで行動し、カツアゲ、タバコや飲酒は当たり前、さらに教員の車を燃やしたりと、やりたい放題。
ある日、ケンカで負けたことから、彼らはボクシングを始め、やがてシンジはその才能を開花させていくが、逆に挫折したマサルはヤクザの世界に足を踏み入れていく。この二人を軸にして複数の人間の物語が丹念に描写されているのが、本作のポイントでもある。
タクシー運転手、お笑いコンビ、やくざの鉄砲玉…。彼らとシンジとマサルはすべて監督の北野武の分身として見ることができる。
北野武は売れる前にタクシー運転手をしていたし、ボクシングにも打ち込んだことがある。
もし道を誤っていたら極道になっていたかもしれない、と自覚もあるのでしょうね。
バイク事故から生還した経験を受けて、この映画は主人公が「生き残る」数少ない北野映画になったといわれています。
あの自転車のラストシーンのセリフも、再起を果たそうとする北野監督の心情を代弁しているのかもしれません。青春の栄光と挫折を表現している「2人乗りの自転車」がぐっと胸に迫ります。
6.『ターボキッド』(2015)
今回紹介している映画の中で最もおバカな本作。一言で言うならBMX版『マッドマックス』。
それだけで、「あーバカだわ」となりますよ。誰が聞いたって。なので、そんな感じでこの後の文章をお読みください。
1997年、世界は核の炎で包まれた。文明は崩壊し、あらゆるものが汚染された荒涼とした世界、水をめぐって争う荒くれ者達が自転車で疾駆する荒野で、主人公のキッドはBMXにまたがり、ヒーローコミック「ターボライダー」を人生のバイブルとして一人で生きのびてきた。
そんなある日謎の少女アップルと出会い彼女に惹かれていくが、水を牛耳る極悪首領ゼウスによって彼女が誘拐されたてしまう。
キッドは彼女を取り戻すため、そして正義の鉄槌をゼウスに下すため、ターボライダースーツに身を包み、敵のアジトに乗り込むべくペダルを踏み込むのだ!
あえて古臭いポストアポカリプスの世界観からして安っぽいB級感が漂うなかに、吹き出す血の量かなり多めのバイオレンスアクションが展開される。
パロディ頼りのバカ映画と侮っていたが、これが大変面白い。
しっかりとヒーロー物であり、王道のストーリーなのだよ。
キッドが成長していく青春ものとしてもよくできている。
グロが多めなので、見る人は選ぶんだけどね。
冷静に考えると文明の崩壊した世界でバイクや自動車が走ってるって逆に変なように思えてきて、ターボキッドの方が正しい気すらしてくる。
みんなも核戦争後の世界に備えて、自転車の練習をしておいても損はないぞ!
というわけで、今回「自転車にまつわる映画」をご紹介しました。
自転車を通して表現されるものも様々で、自転車文化の多様性のようなものが感じられますね。冬ですので、お家でゆっくりと気分転換にでも見たいただけたら幸いです。